歌の歳時記


2月 寒仕込み


杉玉・こも樽・鼓


酒



このみきを かみけむひとはそのつづみ うすに立てて歌ひつつ かみけむかも
            古事記 中巻「酒楽(さかくら)の歌」 武内宿禰

(大意)
この旨酒を醸んだ人は、その鼓を臼として立てて置き、歌いつつ醸んだからであろうか

 武内宿禰は、5世代の天皇(景行・成務・仲哀・(神功皇后)・応神・仁徳)に仕え
300歳まで生きたという伝説の武将で架空の人物とされる。
従って「作者不詳」が正しいのかもしれない。

 「酒楽の歌」は即位前の応神天皇が戰の穢れを落とす禊の地・敦賀から大和へ帰ってくるのを、
母である神功皇后が特別の酒「待ち酒」で迎え宴を開いた。
この宴で神功皇后と武内宿禰が交わした歌とされている。
伝説が正しければ、3世紀頃の話であり「日本最初の酒の歌」と云える。
因みに応神天皇は全国の「八幡神社」のご祭神(武神)とされ、
更に応神天皇の御子が次の天皇・仁徳天皇となる。

  「酒楽(さかくら)の歌」
(神功皇后)このみきはわがみきならず くしの神とこ世にいますいわ立たすすくなみ神の
      かむはきほきくるほし とよほき ほきもとほし まつりこしみきぞ あさずをせ ささ
 (訳)この神酒はわが作る酒ではないぞ 岩としてお立ちのスクナビコナが
    呪言踊り喜び狂いあそばび 栄え呪言祈り舞い廻りて 贈り来た神酒なるぞ
    残さず飲まれよ さあさ

(武内宿禰)このみきをかみけむ人はそのつづみ うすに立てて歌いつつかみけれかも
    舞いつつかみけれむかも このみきのみきのあやに うたたのし ささ
 (訳)このうま酒を醸した人は その鼓を臼として立てて置き 歌いつつ醸したからであろうか
    舞いつつ醸したからであろうか このうま酒のうま酒の何ともはや
    楽しいことよ さあさ
 「口語訳古事記」(三浦祐之・文藝春秋社)

「スクナビコナ」出雲神話で、豊富な知識を持ちにオオクニヌシがすすめる国作りを助けた小人の神様。
国作りの途中で常世国(海の彼方の世界)へ帰ってしまう。
農業や土木・経済・医療・酒造り・温泉・航海安全の神。桃太郎・一寸法師など小さい子のルーツとされる。

 「鼓」奈良時代に唐から原型が伝わり、小鼓・大鼓は日本で成立した。

 「酒」は元々新米で作ったので10月の季語。その後、寒仕込が増えた。
近年温暖化の影響で、酒米の質が変わったり、温度が高く酵母熟成が進み過ぎる
(低温でゆっくり熟成させた方が美味しくなる)などの弊害が昔からの酒蔵で問題となっており、
北国へ移転する醸造所もある。

「杉玉」 「搾り始めました、新酒ができましたよ。」という酒蔵の合図。
奈良県の三輪山・大神神社(おおみわじんじゃ)が発祥とされる。

 「こも樽」 江戸時代、灘や伏見から江戸へ酒を運ぶのが馬の背に載せた陸送から、
船を使う海運に変わった。これにより運べる酒の量が増大し、酒樽も大きくなった。
しかしこの事により船内で酒樽の破損は損失の増加となり問題となった。
そこで樽を薦(こも)で巻いて保護して送ったのが始まりといわれる。

 「薦・菰(こも)」 水辺に生えるイネ科の多年草・マコモの古名で、これを粗く編んだむしろをいう。
現在は藁を使う。




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